究極の子育て失敗例を知ることができる本【子供を殺してくださいという親たち】
「『子供を殺してください』という親たち」という重いテーマを扱った本の感想です。
精神病患者とその家族の壮絶な現実が記されているノンフィクションです。
「子供を殺してください」という親たち(新潮文庫)【電子書籍】[ 押川剛 ]
驚いたのは、日本で起こる殺人事件の半数以上は家族間で起こっているものなのだそうです。
血が繋がっているからこそ、こじれても縁を切ることもできず、最悪のケースになってしまうのかもしれません。
著者の押川氏は、精神障害者を精神科医療につなげるための移送サービスを20年近く続け、自立・更生支援施設を設立するなどの活動をしています。
酒に溺れて包丁を振り回したり、重さ5キロのダンベルを親の枕元に落とす息子。母親を奴隷扱いし、ゴミ部屋に閉じこもる娘。家族は、殺すか殺されるかというギリギリの局面まで追い詰められています。
本書で扱われている事例は7例でしたが、
- エリートで比較的裕福な家庭
- 教育熱心でプレッシャーが多い家庭
- 父親が子育てにほぼ関与せず、母親任せ
という傾向の家庭が多いそうです。
裕福な家庭が多いのは、移送サービスの料金が高いことが原因だと思います。最低でも500万かかるケースもあるとか。
気になった点
このような事態に陥った背景として、著者がすべて親子関係に結びつけようとしている点が気になりました。
著書を読むと、親の育て方のせいで、統合失調症になったように捉えかねません。
統合失調症の原因は、まだはっきりと解明されていないけど、脳の病気とされているので、誤解を与える表現は控えて欲しかったです。
ある事例では、家庭環境はそれほど悪くないように見えたが、両親によく話を聞いてみると、彼が思春期の頃、親子間で心の距離が生じたと感じることがあったそうだ。とも述べていました。
→そして、押川氏は親子関係の影響が原因だ!と結論づけていたようでした。
でもそれはこじつけな気が…ほとんどの家庭では思春期に問題が起きると思ってるので。
生まれつきか?育った環境か?
本著に登場する精神病患者(以降彼ら)は、全員ではないけど、幼少期からいじめなど問題行動起こしている傾向がありました。
どちらかというと親の影響よりは、生まれ持った気質など先天的なものや病気の影響が大きいようにも感じました。
同じ環境の子どもが、すべて引きこもりや精神を病むかといえばそうでもないわけで…
その証拠に、彼らの兄弟は、特に問題なく自立しているようでした。
当時は発達障害という概念が確立されていなかったため、療育などに行くことはなく、放置されてしまった事態が悪化したとも推測できます。
もっと劣悪な環境だとしても、反面教師にして軌道修正できる人もいるだろうし、最終的には親より本人の思考の影響が大きいように感じました。
環境はその人の性格を決定づける重要な因子の1つだと思いますが、100%ではないというのが(特に成人後は親の影響は少ない)私の持論です。
普通の家庭でも起こりうる問題
登場する親たちのほとんどが、よい親とは言えないけど、そこまで酷い親でもない印象でした。そんなよくある普通の家庭でも、起こりうると考えると恐ろしいです。
一歩間違えれば、この本に出てくるのは私だったかもしれません。
いくら家庭環境がよくても、いじめや合わない仕事など家庭外での環境が原因で、鬱や引きこもりになることもあるし、程度の差はあっても、誰にでも精神病は起こりうることです。
例えば荒れていない学校に通わせるなど、良い環境を選ぶのも大事だけど、いじめはどんな学校でも問題になるだろうし、運次第なところもあると思います。
そして、違和感を感じたら、早めに対処することが大事だと思いました。
本人や家族の感覚が麻痺したり、拒否をして、治療が遅れて手がつけられなくなるケースも多いそうです。
「子どもを殺してください」というタイトルにもあるように、著者はそのような言葉を言い放つ親たちに否定的だったけど、同じ状況に陥ったら?気持ちはわかる気がします。
著者は子ども側(20〜50代)に対する思いが強いのか 、親の気持ちにはあまり寄り添えていなく、親に対して辛辣な印象をうけました。
恐らく当事者にしか理解できないし、とても難しい問題だと思います。
きょうだいリスクについて
彼らの兄弟が、年老いた親に代わって面倒をみる症例もありました。
親は先に死ぬ可能性が高いけど、兄弟の方が長い期間関わることになるでしょう。そんな兄弟の苦悩も描かれていました。
ひきこもり、無職などの兄弟問題も根が深いと思います。
きょうだいリスク 無職の弟、非婚の姉の将来は誰がみる? (朝日新書) [ 平山亮 ]
精神障害者を医療につなげる仕事をする人が増えて、利用しやすいサービスなってほしいです。色々と考えさせられる本でした。
漫画もありますが、ペットを殺すなど過激なシーンが含まれているため、苦手な人は注意したください。
「子供を殺してください」という親たち 1 (バンチコミックス) [ 鈴木 マサカズ ]